ベトナムで化粧品の販売パートナーを選ぶときに確認したい13項目 ― 実務・契約で何を確認するか
ベトナムで化粧品を販売する方法には、現地法人を設ける、越境ECで販売する、現地のディストリビューターと組むなど、いくつかの選択肢があります。その中でも、現地パートナーと組む方法は、立ち上げに必要な固定費を抑えながら市場に入る手段として、検討される選択肢の一つです。
候補先を比較するとき、取引先の数や知名度は分かりやすい指標です。ただしベトナムでは、化粧品の製品届出はベトナム側の輸入企業が申請者となるのが標準的な流れとされ⁶、EC売上は二つのモールに大きく集中しているとされています⁶。また、ハンドキャリーなどによる並行輸入品の販売も見られます⁴。日本国内で取引先を選ぶときとは異なる観点も含めて、候補先を確認する必要があります。
本記事では、候補先を同じ基準で比較するための13項目を、「なぜ重要か」「確認したいこと」「よい回答の例」「注意すべきサイン」の4つに分けて整理しました。後半では、契約前に確認しておきたい主な論点もまとめています。特定の企業を推薦するものではなく、どの候補先との面談でも使える実務的なチェックリストとしてご利用いただくことを想定しています。
代理店(Agent)とディストリビューター(Distributor)の違い
日本語では、海外の販売パートナーを広く「代理店」と呼ぶことがありますが、契約上の立場は同じではありません。日本の制度に関するJETROの解説¹では、代理店(Agent)はメーカーなど本人のために販売を仲介し、手数料を受け取る立場で、顧客との売買契約の当事者にはなりません。一方、販売店(Distributor)は本人から商品を買い取り、自らの責任で第三者に販売すると説明されています。同解説では、販売店の販売価格について「販売店が自由に設定することができます」とされ、販売した商品の代金回収も販売店が担うとされています¹。
つまり、買い取り型のディストリビューターと組む場合、在庫と代金回収のリスクは主にディストリビューター側が負うことになります。一方、ディストリビューターが設定する販売価格や販売方法にブランドがどこまで関与できるかは、契約内容や日本・ベトナムそれぞれの競争法によって異なります。この点は専門家への確認が必要です。以下の「価格」「在庫」「契約」の項目は、この違いを前提に読むと整理しやすくなります。なお、JETROの同解説は日本での取引を前提としたものです。ベトナム法上の代理店・販売店の位置づけについても、契約前に専門家へ確認してください。
候補先の探し方と、比較するときの基本
候補先を探す方法としては、JETROによるパートナー探索支援、現地の日本商工会議所への照会、業界展示会などが挙げられます²。
候補先を選ぶ際は、知名度だけでなく、実際に動ける体制があるかを見極めることも重要です。日本の実務解説では、代理店選びを「知名度より相性と実行力を見極める作業」と表現し、問い合わせへの反応の速さ、情報開示の姿勢、テスト導入への柔軟性などを確認すべき点として挙げています³。別の解説では、コミュニケーション能力、既存取引先との整合性、財務体力、自社商品への関心を確認せずに契約すると、商品を預けても十分に動いてもらえない可能性があると指摘し、参照先(レファレンス)の確認や「小規模な試験導入から始める」ことを勧めています²。
以下の13項目は、こうした一般的な基準を、ベトナムで実際に確認できる質問や資料に置き換えたものです。
ベトナムの販売パートナーに確認したい13項目
1. 法令・製品届出と輸入実務
なぜ重要か JETROの資料によると、ベトナムで化粧品を輸入・販売するには製品ごとの届出が必要で、標準的な流れではベトナム側の輸入企業が申請者となります⁶。本記事ではこの手続きを「製品届出」と表記します。現地では「化粧品開示」「公布」と表記される資料もあります。届出名義となれる法人の条件は、最新の規定を専門家に確認してください。受領番号は発行後5年間有効とされ⁶、製造業者から輸入企業への委任状など、日本側で用意する書類もあります⁶。相手の実務力は、ブランド側の作業量や立ち上げ時期に直結します。
確認したいこと 自社名義で保有している製品届出の件数と、その数え方(製品単位か、色・品番単位か)。有効期限をどのように管理しているか。届出名義となれる条件を最新の規定に照らしてどのように確認しているか。日本側に依頼する書類の一覧。自社名義での輸入実績と、日本原産品に関する原産地証明書(様式VJ)を扱った経験。
よい回答の例 製品届出の受理書類や輸入申告書の写し(価格などは伏せたもの)を示し、どの法人名義かを明確に説明できる。日本側に依頼する書類と所要期間を一覧で示せる。
注意すべきサイン 件数だけを示し、何を1件と数えているのか、どの法人名義なのかを説明できない。第三者を通じて輸入しているにもかかわらず、自社が直接輸入しているかのように説明する。
2. 販売チャネルの設計
なぜ重要か ベトナムの化粧品流通では、ドラッグストアなどの近代的小売(MT)、個人経営店などの伝統的小売(TT)、ECが併存しています⁶。JETROの調査では、伝統的小売は高価格帯の輸入品よりも、回転率の高い汎用品が中心になると説明されています⁶。どのチャネルに強いかによって、同じ商品でも売れ方は変わります。
確認したいこと 自社売上のチャネル別構成。この商品であれば、最初にどのチャネルから始め、どの順番で広げるのか。越境ECなど、すでに市場にある他の流通経路をどのように捉えているか。
よい回答の例 チャネルごとの役割(認知、販売、在庫消化など)を分けて説明し、最初は販売先を絞り込む提案ができる。
注意すべきサイン 最初から全チャネルへの同時展開を約束する。チャネル別の実績や構成を説明できない。
3. ECモールの運営
なぜ重要か JETROの化粧品市場に関する調査では、2024年のEC売上について、プラットフォーム別ではShopeeが67%、TikTok Shopが27%のシェアを占めるとされています⁶。手数料や販促条件は変わることがあり、同調査もモール手数料や新規顧客獲得コストの負担が重いと指摘しています⁶。モール運営の実力は、利益と価格の両方に直結します。
確認したいこと 公式ショップを自社で運営しているのか、外部へ委託しているのか。最新の手数料体系をどのように価格設計へ織り込んでいるか。セール参加を誰が判断するのか。
よい回答の例 自社運営のショップ画面を示し、手数料や販促費を含めた価格構成を説明できる。
注意すべきサイン 現在の手数料率を把握していない。ショップの実際の運営主体が明確でない。
4. ソーシャルコマースとクリエイター施策
なぜ重要か JETROの同調査は、ライブ配信やショート動画を通じて購買と娯楽を組み合わせる「ショッパーテインメント」が重要になっていると指摘しています⁶。メイクアップは、仕上がりや使用感を動画で伝えやすいカテゴリーです。クリエイターやKOC(一般消費者に近い目線で発信するクリエイター)との協業が、販売施策の一部として重要になる場合があります。
確認したいこと 継続的に協業しているクリエイターの数と、その数え方。1本あたりの費用の目安。成果を何で評価しているか(再生数、販売数など)。
よい回答の例 過去の施策について、期間・費用・販売成果の組み合わせで説明できる(具体的な数字は伏せても構いません)。
注意すべきサイン フォロワー数だけを示す。成果を販売への影響ではなく再生数だけで説明する。
5. 価格方針と販促費の分担
なぜ重要か 日本の店頭価格が、そのままベトナムでの販売価格になるわけではありません。輸送費、関税・付加価値税、流通各段階の利益、モール手数料などが加わります。また、値引き販売が常態化すると、ブランドの価格ポジションが変わってしまうことがあります。なお、ディストリビューターの再販売価格にブランドがどこまで関与できるかは、日本とベトナムの競争法に関わるため、専門家への確認が必要です。
確認したいこと ECと店頭の販売価格を、誰がどの頻度で確認しているか。セールや値引きを判断する際のルール。販促費とサンプル費をブランドとディストリビューターでどのように分担するか。
よい回答の例 値引きやセールの判断基準を含む自社の価格方針が書面化され、責任者が明確になっている。ブランドとの役割分担については、専門家の確認も踏まえて契約で定める姿勢がある。販促費・サンプル費の分担を施策ごとに整理して示せる。
注意すべきサイン 「価格は市場が決める」とだけ答え、社内の責任者や判断基準が明確でない。販促費の分担について、契約前に話し合おうとしない。
6. 卸・小売(B2B)の販売網
なぜ重要か JETROの調査では、ベトナムの化粧品流通は、輸入ディストリビューターや二次代理店などの中間流通を含む重層的な構造として説明されています⁶。取引先数は分かりやすい指標ですが、定義によって数字は大きく変わります。
確認したいこと 取引のある卸・小売の数を、定義(対象期間、何を1社と数えるか、チャネルの種類)とともに示せるか。直近の一定期間に実際に注文があった先はいくつあるか。
よい回答の例 「直近○か月に注文があった小売店○店(うちドラッグストア○店、個人店○店)」のように、期間と単位を付けて説明できる。
注意すべきサイン 定義のない丸い数字(「○○社以上」など)だけを示す。
7. 販売実績(セルアウト)の報告
なぜ重要か ディストリビューターへの出荷(セルイン)が順調でも、店頭やECで実際に売れていなければ、次回発注までに在庫が滞る可能性があります。ブランドが市場の実態を把握するうえで、販売実績の報告は重要な情報源になります。
確認したいこと どの単位(SKU、チャネル、地域)で、どの頻度で販売実績を報告できるか。
よい回答の例 報告書のひな型(数字を伏せたもの)をその場で示せる。ECはモールの管理画面、卸は出荷先別データなど、数字の出所を説明できる。
注意すべきサイン ディストリビューターへの出荷量(セルイン)しか報告できない。報告頻度を契約で定めることを避ける。
8. 在庫と使用期限の管理
なぜ重要か 使用期限が近い在庫は、値引き販売によって処分されやすく、ブランドの価格ポジションを崩す要因になり得ます。また、納品時点でどれだけ使用期限が残っている必要があるか(残存期間)について、販売チャネルごとに条件が設定されているかも確認したい点です。
確認したいこと 発注サイクルと安全在庫の考え方。日本からの出荷時点で、使用期限が最低どれだけ残っている必要があるか(チャネル別)。期限の近い在庫をどのように扱うか。
よい回答の例 使用期限の近い商品から先に出荷する運用(FEFO)を説明でき、チャネル別の受け入れ条件を示せる。
注意すべきサイン 期限の近い在庫を、モールでの大幅値引きによって処分することを前提としている。
9. ブランドを守る姿勢
なぜ重要か 並行輸入品や模倣品は、価格やブランドへの信頼に影響を与える可能性があります。並行輸入品に対して法的にどのような対応が可能かは、専門家への確認が必要です。候補先がこの点をどのように説明するかも判断材料になります。JETROの同調査は、現地パートナーとの連携による法規制・リスク管理の具体策として、商標の早期登録を挙げています⁶。
確認したいこと 並行輸入品・模倣品にどのように対応しているか(事例は匿名でも構いません)。同じ価格帯の他ブランドを扱っている場合、売り場、クリエイター、販促の優先順位をどのように分けているか。ブランドの商標は、ベトナムで誰の名義で登録されているか。
よい回答の例 対応できる範囲(正規品の見分け方に関する案内、模倣品の通報など)と、対応できない範囲を分けて説明できる。取り扱いブランド間の優先順位をどのように決めるかを具体的に説明できる。
注意すべきサイン 並行輸入品を「すべて止められる」と約束する。ブランドの商標をディストリビューターが自社名義で出願しようとする。
10. 現地市場の理解
なぜ重要か 公開されている市場レポートは、どの候補先も同じように読むことができます。差が表れやすいのは、自社の販売データや現場経験から何を把握しているかです。
確認したいこと 公開資料には載っていない、自社の販売データから分かることは何か。この商品は、ベトナムでどの価格帯・どの競合と比較されると考えているか。
よい回答の例 自社データに基づく具体的な観察(どの色が、どのチャネルで、どの価格帯で動いたか)を、数字を伏せた形でも示せる。
注意すべきサイン 公開レポートの数字を繰り返すだけで、自社の観察や仮説がない。
11. 財務体力と支払条件
なぜ重要か 買い取り型のディストリビューターは、仕入代金を支払い、代金回収の責任を負います¹。財務余力が十分でなければ、発注量が増えた段階で支払いが滞ったり、在庫処分を急いだりする可能性があります。日本の実務解説でも、財務体力・財務状況は候補先を確認する観点として挙げられ²、支払条件は契約前に詰める条件の一つとされています³。
確認したいこと 希望する支払条件(前払い、一部前払い、後払いの場合の期間)。決算書など、財務状況を確認できる資料を開示できるか。信用調査に応じるか。
よい回答の例 支払条件の提案に、発注量や在庫回転日数などの根拠があり、財務資料の開示や信用調査に応じる。
注意すべきサイン 初回取引から長期の後払いだけを求める。財務状況について一切開示しない。
12. 経営層の関与と窓口
なぜ重要か 海外取引では、担当者の異動や連絡の遅れが、そのまま意思決定や販売活動の停滞につながることがあります。判断権限を持つ人と直接話せるかどうかは、問題発生時の対応速度にも影響します。
確認したいこと 経営層と直接話せるか。日常の窓口は誰か。どの言語で対応し、通常どの程度の時間で返信するか。
よい回答の例 責任者の氏名・役職、日常の窓口、返信の目安を最初の面談で示せる。
注意すべきサイン 共通メールアドレスしか示されず、誰が判断するのか分からない。
13. 既存市場で販売体制を見直す場合
すでにベトナムで販売した経験のあるブランドが販売体制を見直す場合は、初めて市場に参入するときとは異なる確認事項があります。ここでいう「見直し」には、新しいパートナーを選ぶことだけでなく、現在のパートナーとの役割分担や運営体制を強化することも含みます。
なぜ重要か パートナーを変更する場合、製品届出を新しい名義で取り直す必要があるとする現地の解説もあります⁵。届出名義の法人以外による輸入の可否や、既存の受領番号の扱いについては、最新の規定を専門家に確認する必要があります。また、市場に残る在庫、ブランド名を使用しているECショップやSNSアカウント、ウェブサイトのドメインなど、届出以外にも引き継ぎが必要になるものがあります。
確認したいこと 販売体制を変更する場合、製品届出をどのように扱う必要があると理解しているか、その根拠は何か。あわせて、旧体制から移行する際、次の項目をどのような手順で進めるかを具体的に説明できるか。
- 製品届出:新しい名義での届出の取り直しが必要かどうかと、その場合の期間
- 委任状(LOA):ブランドから新しい届出名義の法人への発行と、その範囲・期間
- 市場に残る在庫:旧体制の在庫が値引き販売された場合の価格への影響
- デジタル資産:ブランド名を使用しているショップ、SNSアカウント、ドメインの名義
- 移行期間:二つの体制が並行する期間の価格と顧客対応のルール
- 過去の販売データの振り返り:どの商品が、どのチャネル、どの価格帯で売れていたか
よい回答の例 移行手順を時系列で示し、ブランド側にしか分からない情報(過去の販売データなど)を初期段階で確認してくる。
注意すべきサイン これまでの販売経緯や、市場に残っている在庫・デジタル資産などについて何も確認しない。
契約前に整理しておきたい論点
以下は主な論点を整理したものであり、契約書の雛形ではありません。具体的な条項は、必ず日本・ベトナム双方の法律の専門家に確認してください。日本の実務解説では、販売対象エリア、独占権の有無、最低発注数量、価格条件、販促費の負担、在庫責任、支払条件、契約期間、解除条件などが、契約前に詰めるべき条件として挙げられています³。独占権の範囲、最低購入量、解約条件は専門家とともに精査すべきだとする解説もあります²。
独占権 独占を設定するか。設定する場合は、その範囲(チャネル、商品、期間)をどこまでとするか。相手の販売力が十分に見えていない段階で広い独占を与えると、その後の販路拡大が止まりやすいと指摘されています³。独占を設定する場合、数量や期間の条件と結びつける考え方があります⁵。
販売地域 ベトナム国内に限定するか。EC販売をどのように扱うか。越境ECとの関係を契約上どのように整理できるかは、専門家への確認が必要です。
目標(KPI) 何を、どの期間で測るか。ディストリビューターへの出荷量(セルイン)だけでなく、店頭・ECでの販売実績(セルアウト)や報告頻度を含めるか。目標未達の場合に、独占範囲の見直しなどにつなげるか。
委任状(LOA) ある現地の解説は、「LOAは「相手に出す書類」ではなく、ブランドが市場アクセスを制御する数少ない契約装置です」と述べ、範囲、期間と更新、撤回条件、独占の扱いを明記するよう勧めています⁵。LOAの撤回が既存の製品届出に与える影響は、専門家への確認が必要です。
終了時の引き継ぎ 契約終了時に何をどのように引き継ぐかを、契約段階で決めておきます。
- 製品届出の受領番号の扱いと、新しい届出名義の法人への移行協力
- 残在庫の扱い(ブランドによる買い戻し、販売期限の設定など)
- ECショップ、SNSアカウント、ドメインなどの名義と返還
- 顧客・取引先データの扱い
- 移行期間の長さと、その間の価格に関するルール
顧客・取引先データの移転については、ベトナムの個人情報保護に関する規定の確認が必要です。準拠法や紛争解決方法についても、専門家と検討してください。
小さく始め、測ってから広げる
候補先を一社に絞る前に、少数の主力商品から試験的に始め、事前に決めた指標で結果を確かめる方法があります²・³。初期段階で、報告の質、価格方針の運用、問い合わせへの反応などを実際に確認できれば、契約範囲を広げるかどうかを根拠を持って判断しやすくなります。
この記事を書いた会社について
TC Beautyは、ベトナムで化粧品の卸売・流通を手がけるディストリビューターです。これまで主にタイの化粧品ブランドを取り扱ってきました。日本ブランドの取り扱いは、現時点ではありません。
本記事で挙げた13項目は、当社を評価いただく際にも同じようにご確認いただきたいと考えています。なお、現時点で整備途上の項目もあります。ベトナム市場や販売体制について意見交換をご希望でしたら、tungnm@tcbeauty.com.vnまでご連絡ください。